建築のプロがステンレス網戸を必ずしも手放しで勧めない理由の一つに、サッシ全体の耐久性バランスの崩れがあります。網戸というものは、サッシ枠、レール、戸車、そしてネットという複数の部品が組み合わさって機能していますが、ステンレス網はこのバランスを大きく変えてしまう要素を持っています。最大の問題は、その「重さ」です。ステンレスはポリプロピレンなどの樹脂素材に比べて比重が重く、特に大開口の掃き出し窓などに全面採用した場合、網戸一枚の重量はかなりのものになります。サッシのレールや戸車は、もともと軽量な樹脂製網戸を前提に設計されていることが多く、そこに重いステンレス網戸が載ることで、戸車の摩耗が急激に早まります。毎日開閉するたびにレールと戸車の間に強い摩擦が生じ、数年後には「網戸の動きが重い」「ガタガタと異音がする」といったトラブルに繋がることが少なくありません。最悪の場合、アルミ製のレール自体が摩耗して削れてしまい、サッシ枠全体の交換という高額な修理が必要になるリスクも孕んでいます。また、ステンレス網戸の「硬さ」は、地震や強風時の住宅のしなりに対してもデメリットとして働くことがあります。樹脂製の網は適度な弾力があるため、建物がわずかに歪んだ際にもその力を吸収して逃がしてくれますが、ステンレス網はほぼ伸び縮みしません。そのため、枠にかかったストレスがそのままサッシの接合部やネジに伝わり、枠の歪みを助長してしまうことがあるのです。さらに、通気性の面でも微妙な差異が生じます。ステンレス網は強度を確保するために、一本一本のワイヤーに一定の太さが必要です。そのため、同じメッシュ数(網目の細かさ)の樹脂製ネットと比較すると、ワイヤーの太さの分だけ開口面積が狭くなり、風の通りがわずかに悪くなる傾向があります。特に微風の時など、自然の風を効率よく取り入れたい場面において、このわずかな通気抵抗の差が室内の体感温度に影響を及ぼすこともあります。また、金属は熱伝導率が高いため、夏場の直射日光を浴び続けると網戸自体が高温になります。窓を開けて換気をしているつもりでも、熱せられたステンレス網を通り抜けた空気が熱を持って室内に入ってくるため、冷房効率の低下や不快感の原因になることも否定できません。このように、単体の耐久性としては優れているステンレス網戸ですが、住宅というシステムの一部として捉えたときには、サッシの寿命を削ったり、熱環境を悪化させたりといった、目に見えにくい数多くの副作用を抱えていることを忘れてはなりません。
住宅性能への影響と戸車やレールにかかる見えない負荷